法話 〜3分間心のティータイム〜イメージ

【第1104話】 「さわやかな記憶」 2018(平成30)年8月21日-31日

1104.jpg お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1104話です。

 私がよちよち歩きの2・3歳のころ、誤って家の前の池に落ちました。そばにいた姉が大声で叫んだので、親が出てきて無事助け出されたそうです。私は全然覚えていません。親に教えられて知っているだけです。溺れる寸前の出来事だったのに、幼いころの記憶はないものです。ドイツの心理学者の研究でも、幼児の記憶が残るのは早くて3歳以降という説があります。

 さて、藤本理稀(よしき)ちゃんの場合はどうなのでしょう。理稀ちゃんは8月12日帰省先の山口県周防(すおう)大島町で、祖父と海岸に向かって100メートルほど歩いたところで、「帰る」と言って1人で家に戻りました。その後行方がわからなくなりました。警察と消防で捜索したものの難航していました。15日の朝、ボランティアで大分県から捜索に加わった尾畠(おばた)春夫さんによって発見、68時間ぶりに保護されました。

 理稀ちゃんは、最後に目撃されたところから約560メートル離れた山中の沢で、石の上に座っていたそうです。体には擦り傷やダニにかまれた痕があるものの、食欲もあり元気だとのこと。ともかく無事で何よりでした。それにしても理稀ちゃんは、2歳になったばかりです。果たして沢の水を飲めたかどうか、食べた形跡はないようです。幼子なら家の中にひとり置かれても、不安になって泣き出すでしょう。ましてや山の中、三晩も闇の中で過ごすことができたのは、よほどの生命力の持ち主なのかもしれません。

 この奇跡のような出来事を、理稀ちゃんはどれだけ記憶できるか分かりません。是非健やかに育てながら、家族がきちんと伝えあげて欲しいですね。特に直接の発見者である「命の恩人」尾畠さんのことを。

 尾畠さんは元々は魚屋さんで、65歳で店を閉めてからは、社会に恩返しがしたいと、ボランティアを始めたそうです。これまで新潟中越地震、東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨の現場などで活動し、78歳の今も人助けの為に東奔西走しています。毎朝8キロ走り体を鍛え、移動手段の軽ワゴン車には、食糧・寝袋などを積み込んで、相手に迷惑をかけないボランティアの自己完結を貫いています。理稀ちゃんの家族から、風呂を勧められても「そういうものはもらえない」と断ったほどの、筋金入りのボランティアです。

 ボランティアをよく「奉仕活動」と言っていますが、もとの意味はラテン語で「自由な意志」だそうです。奉仕というより、人に頼まれてやるのではなく、できることを、何の見返りも求めず、「自発的」に行うことと言えます。ある人は「心意気」とも訳しています。尾畠さんの心意気が2歳の子どもにも、世の多くの人々の記憶にも残って欲しいものです。今回のことが、今年の夏の猛暑を吹き払うさわやかな記憶として、永く語り継がれるような世の中でありたいですね。

 それでは又、9月1日よりお耳にかかりましょう。

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