テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【1308話】「花咲か爺さん」 2024(令和6)年4月21日~30日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1308話です。

 枯れ木に花を咲かせたのは「花咲か爺さん」、被災地の荒地に花を咲かせたのは「NPO法人三島緑の会」です。静岡県三島市の団体で、東日本大震災後の2013年から日本沙漠緑化実践協会の植樹活動に参加し、毎年山元町に桜を植樹して下さっています。一昨年はコロナ禍のためお出でいただけませんでしたが、苗木を送って下さいました。縁あってそのうちの13本を徳泉寺にいただきました。

 徳泉寺は徳本寺の末寺で、海のすぐそばにあったため、大津波ですべてが流されました。本堂は全国からの「はがき一文字写経」の功徳で再建できました。しかし、あたりは災害危険区域のため、民家はなく「ポツンと一軒家」風です。周りに何もないので風当たりは強く、果たして桜は根付くだろうかと心配でした。しかし2年経った今年3月末、河津桜と思われる品種の1本が、どこよりも早くピンクの花一輪を咲かせました。「サクラサク」まさに復興のお墨付きをいただいたようでした。

 さて「花咲か爺さん」の話を思い出してみましょう。弱った子犬を助けた優しいお爺さん。「ここ掘れワンワン」と子犬に言われるまま、畑を掘ると大判小判がザクザク。欲張り爺さんがまねをして、子犬が鳴くところを掘ってもガラクタばかり。激怒して子犬を殺してしまいます。優しいお爺さんは子犬をお墓に埋め、そばに1本の木を植えました。あっという間に大木になりました。子犬が夢に出て「大木で臼を作って」と言います。その臼で餅をつくと、またも大判小判がザクザク。

 欲張り爺さんが強引にその臼を借りるも、出てくるのはガラクタばかり。怒り狂い臼を燃やしてしまいます。優しいお爺さんは灰になった臼を思い悲しんでいると、また子犬が夢に現れます。「桜の枯れ木に灰を撒いて」と頼まれます。その通りにすると、満開の桜が咲きました。「枯れ木に花を咲かせましょう」と次々に灰を撒いて花を咲かせました。お殿様が評判を聞きお出でになり、感動してたくさんのご褒美にあずかりました。欲張り爺さんはねたんで真似をしましたが、花が咲くどころか、灰がお殿様の目に入り、とんだ無礼者ということで、牢獄に入れられました。

 大震災当初私は、瓦礫に覆われた大地に立ち、もはや草1本も生えないだろうと覚悟しました。まさに枯れ木のような状態でした。「三島緑の会」の桜植樹は、花咲か爺さんのようです。子犬の存在に津波で犠牲になった人々が重なります。臼は失った家屋敷や財産、思い出でしょうか。臼の灰は無常を象徴しています。無常なるがゆえに、きっとまた花は咲くと信じて、「三島緑の会」は植樹を続けてくださいました。花咲か爺さんが灰を撒いたように。そして確かに桜は咲いたのです。

 「桜ばな いのちいっぱいに 咲くからに 生命(いのち)をかけて わが眺めたり」岡本かの子の歌です。大震災から13年。多くの命の上に生かされている私たちであり、桜の花であると思わずにはいられません。できるなら、津波を牢獄に閉じ込めておきたいものです。

 それでは又、5月1日よりお耳にかかりましょう。



一輪の桜

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