テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【1310話】「鬼より強い母の愛」 2024(令和6)年5月11日~20日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1310話です。

 昔インドに訶梨帝母(かりていも)という母がいて、千人もの子ども産みました。しかし、子を育てる栄養をつけるため、よその子を捕まえて食べるという鬼のような行いで、人々から恐れ憎まれていました。ある時、お釈迦さまは一計を案じ、彼女が一番可愛がっていた末の子を隠します。すると彼女は気も狂わんばかりに嘆き悲しむのです。お釈迦さまは「千人のうち一子を失うもかくの如し。いわんや人の一子を食らうとき、その父母の嘆きやいかん」と戒めました。そこで訶梨帝母は自分の過ちを悟り、お釈迦さまに帰依して、安産・子育(こやす)の神となり、人々に拝まれるようになりました。ご存じ鬼子母神(きしもじん)のいわれです。子を思うあまり鬼となり、また改心もした母です。

 さて、江戸後期文政4年に、現在の青森県八戸市の豆腐屋に万吉という子が生まれました。9歳の時母と一緒にお参りした寺で、地獄極楽絵図を見ます。善い行いをすれば極楽、悪い行いをすれば地獄行きと教えられ、母も地獄に行くというのです。そのわけは、「悪いことはすまいと思っても、お前を可愛がるあまり、知らず知らずのうちに罪を作ってしまうからだ」と。「私がいなければ、極楽に行けますか」と尋ねると、「一子出家すれば九族天に生ずと言って、一人の立派なお坊さんが出た家は、父母だけでなく九族つまり親戚の者もみな極楽の天上界に生まれ変われるのだ」

 以来、万吉は坊さんになって母を極楽に行かせる決心をします。しかし、母はなかなか出家を許しません。万吉13歳の時、母はその一途な気持ちに打たれ出家を認めます。修行もしないで偉ぶった坊さんにだけはなるなと釘を刺して。万吉は持ち前の一途さで修行に励み、一角(ひとかど)の僧となりました。21歳の時師匠の死を機に江戸に上り、更なる研鑽を積みます。めきめき頭角を現し、23歳で江戸の寺の住職となります。その寺の伽藍の修復を手がけたり、大説法の法会を修行して、27歳にして大和尚の位に就きました。

 故郷に錦を飾る思いで、16年ぶりに帰郷します。誰もが出世した万吉を大歓迎します。しかし母だけは会おうとせず、背を向けたままこう言います。「万吉、何しに帰ってきた。大和尚になったくらいで、地獄行きの母を救えるというのか。母のことなどどうでもいい。りっぱな坊さんとは、やるべきことを怠らず、多くの人を笑顔にすることじゃ。ここで留まっては何事にも甘えてしまう。いちいち家に戻ったりするんじゃない。とっとと江戸へ帰れ」

 万吉はハッと気づき、「私が至りませんでした。どうか父さん母さんお達者で」と、そのまま江戸に戻り、修行しなおすのでした。母は誰よりも万吉に会いたい、その晴れ姿を拝みたいとさえ思ったはずです。しかし、出家者には甘えや慢心、里心が一番の敵であることを見極めていたのです。そこで鬼子母神ならぬ心を鬼にした振る舞いに出たのです。鬼より強い母の愛です。その愛に応えた万吉こそ、大本山總持寺独住第3世西有穆山禅師です。曹洞宗の最高位の管長にもなりました。

 ここでお知らせいたします。4月のカンボジアエコー募金は、1,022回×3円で3,066円でした。ありがとうございました。それでは又、5月21日よりお耳にかかりましょう。

※参考文献:西有穆山禅師顕彰会発行『ぼくざんは行く』原案監修 髙山元延

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