テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1291話】「36〈ミロク〉に会う」 2023(令和5)年11月1日~10日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1291話です。

 このテレホン法話は、月3回1日・11日・21日にお話を更新しています。1年で36話になります。昭和62年より継続していますので、今年で36年です。見事に36という数字が重なりました。そのおかげさまに感謝して、36を「ミロク」と呼んで、「36〈ミロク〉に会う」としゃれてみます。

 ミロクとはもちろん弥勒菩薩のことです。お釈迦さま亡き後、56億7千万年後に菩薩から仏となり、この世に現れる未来仏です。お釈迦さまに代わって人々を救ってくださいます。

 京都の広隆寺にある弥勒菩薩像が有名です。飛鳥時代の作で仏像の国宝指定第1号です。右足を左膝にのせ、右手を頬に当て、思索に耽っている半跏思惟像です。仏になったときに、どのように人々を救おうかと考えている姿ともいわれます。それにしても、お釈迦さまが亡くなってまだ2500年しか経っていませんので、あと56億6999万7500年後のことです。何と長い時間をかけて考えるものなのでしょう。

 長い時間考えるといえば、将棋の世界の長考があります。将棋と言えば藤井聡太です。この度、名人・竜王・王位・叡王・棋王・王将・棋聖・王座という将棋の8つのタイトルをすべて獲得し「八冠独占」を達成しました。

 八冠がかかった永瀬拓矢との王座戦第4局は、激しい戦いでした。藤井は午前中から1時間の長考を繰り返します。永瀬も午後には2時間の長考に入りました。午後8時前に藤井は5時間の持ち時間を使い切り、永瀬も8時半ごろに使い切ると、1分将棋の戦いとなりました。そして8時59分に投了し、藤井が王座のタイトルを奪取し八冠に輝きました。

 藤井は長考で30手以上先の局面を読み切っていると言います。弥勒菩薩のように頬に手を当て、最善の一手を考え抜いているのでしょう。21歳にして「天下無双」、他に比べるものがありません。そして、「完全に追われる立場になって、戦い方は変わるか」との質問に対して、「将棋は盤を挟んでしまえば立場の違いは全くないので、その点はこれまでと全く変わらない」と言っています。それはつまり敵は相手ではなく、どうすれば自分がさらに強くなれるかということしか考えていないということでしょう。一般的にはとんでもない頂点を極めたとしか思えないのですが、更なる高みを目指している点では、将棋界の未来仏的存在とも言えます。

 藤井の進化を他の棋士が目標として戦いに挑むなら、将棋界の未来は飛躍するような気がします。それは56億7千万年後の弥勒菩薩に現実には出会えなくても、人類が進化を続け、遠い未来にも存在できるようにという目標として、弥勒菩薩に手を合わせることに通じます。36年続けても進化のないこのテレホン法話は、弥勒には程遠いながら、人生の付録程度としてお聴きいただければ幸いです。

 それでは又、11月11日よりお耳にかかりましょう。

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