テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1263話】「貫く棒」 2023(令和5)年1月21日~31日

住職が語る法話を聴くことができます



 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1263話です。

 箱根駅伝・鏡開き・どんと祭といっているうち、いつの間にか1月も下旬を迎えました。お正月ならではの行事や風景も何処にありやです。同時に新年に誓った今年こそはという決意や願いが薄れてはいませんか。

 〈去年(こぞ)今年貫く棒の如きもの〉高浜虚子の句です。前住職の文英大和尚はいささか俳句をたしなんでいましたので、この句をよく紹介していました。過ぎし一年、新たな一年と時は移っても、棒の如く貫ける信念を持てということでもあったのでしょう。そして前住職は禅僧として当たり前とはいえ、毎朝のお勤めと坐禅を欠かしませんでした。その後ろ姿を見せられた私も、住職としてそれを受け継いでいます。

 さて、今年は東日本大震災で亡くなられた方の13回忌を迎えます。檀家さんも多数亡くなり、当時は葬儀等の仏事に追われる日々に忙殺されそうでした。そんな時、「貫く棒の如きもの」を思いました。世の中は未曾有の出来事でたいへんなことになっているが、今こそ棒の如きものを見失ってはいけないと、自分を鼓舞しました。亡き人やご遺族の方を思えば、住職がうろたえてどうするという気持ちでした。

 どんな異常事態でも朝は必ずやって来る。自分を見失わないためにも、せめて朝だけは、どっしりと構えようと覚悟しました。どんなに忙しくとも、前住職から受け継いできたお勤めと坐禅の時間は守り続けました。そのおかげで、大震災だからこれはできないとか、これだけで勘弁してもらおうという自分に都合の良い逃げ道を求めずに済みました。大震災前から普段に行ってきたからこそ、それができたと坐禅の有り難さを感じました。

 今は弟子と2人で前住職の心を受け継ぎ、5時に起きて朝のお勤めや坐禅を続けています。そして坐禅の最後には次のように唱えます「謹曰大衆 生死事大 無常迅速 各宜醒覺 慎勿放逸(つつしんでだいしゅにもうす しょうじじだいむじょうじんそく おのおのよろしくせいかくすべし つつしんでほういつなることなかれ)」。坐禅の終わりを告げる時などに打つ木版(もっぱん)に書かれている偈文です。「修行者たちに告げる。生きる死ぬは人生の一大事で、諸行は無常である。各々方よ、このことを悟るべく怠ることなく精進しなさい」という内容です。

 もう正月が過ぎたように、時は容赦なく流れていきます。そのような中で、「貫く棒の如きもの」を携えて流されない努力は必要です。そのことに早く目覚めなさいと偈文は言っています。日がな一日ぼんやりしたり、坐禅中に居眠りなどをしている暇はないのです。尤も、貫く棒も持たず、坐禅中眠っていれば、警策(きょうさく)というで、ビシッと肩を叩かれます。何事も辛は大事です。

 それでは又、2月1日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【1321話】
「0歩目の奇跡」
2024(令和6)年9月1日~10日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1321話です。 1996年8月21日(水)甲子園の決勝戦は、松山商と熊本工。3対3の同点で10回裏熊本工の攻撃、1死満塁で3番本多選手。松山商は絶体絶命のピンチ。監督は守備交替で矢野選手をライトに起用。その直後、本多選手の打球は高々とライトへ、3塁ランナーは俊足の星子選手。実況中継も「行った、これは文句なし」と断言したほど、熊本... [続きを読む]

【1320話】
「必死すなわち」
2024(令和6)年8月21日~31日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1320話です。 パリ・オリンピックの新競技「ブレイキン」は、1970年代アメリカニューヨークの貧困地区の路上が発祥。縄張り争いに疲れたギャングのボスが「音楽と踊りで勝負しよう」と呼びかけたのが始まりとか。オリンピックにふさわしいです。 オリンピックは元を糺(ただ)せば、戦争の代わりに様々な争... [続きを読む]

【1319話】
「お盆の結集(けつじゅう)
2024(令和6)年8月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1319話です。 「如是我聞」(かくの如く我聞けり)と、お経は始まります。お経はお釈迦さまの教えですが、当初それは文字で記録されませんでした。後に聞いた記憶をたどって、経典が編集されました。よって、「私はこのようにお釈迦さまの言葉を聞いた」という断りを最初に述べるわけです。 お釈迦さまが亡くな... [続きを読む]