テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1199話】「サクラサク」 2021(令和3)年4月11日~20日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1199話です。

 東日本大震災の大津波で何もかもが流され、もはや元の姿に戻ることはできないと諦めの気持ちでした。ある朝、鶯の声が耳に入ってきて、我に返ったのです。こんな時にも自然は変わらず営み続けている。それから季節の移ろいをメモするようになりました。季節を感じることで、悲惨な現状に流されまいとしたのかもしれません。

 その鶯の声を聴いたのは3月31日でした。その年の桜の開花は4月15日です。あれから10年。桜の開花は年々早くなっています。3年後には1週間早まり、5年後には10日、7年後には2週間という風にです。そして昨年は3月31日に開花しています。今年は3月28日に一輪咲いたと思ったら、2日後には満開になっていました。自然のこととはいえ、この早まり方は、やや不自然な気もして、喜んでいいものやら迷います。

 その迷いを一気に吹き飛ばしてくれた桜があります。大津波で何もかも流された徳本寺の末寺の徳泉寺の境内に植えられた桜です。それは大震災2年後の平成25年3月30日に、仙台ライオンズクラブより贈呈されたもので、大震災の年から育ててきたという12本の苗木でした。ちょうど10年経った今年3月末に花開いたのです。

 大震災後、徳泉寺あたりは災害危険区域になり、住まいすることができません。境内の東わずか300メートルのところに海があります。防潮堤は築かれたものの、松林はなくなりました。目の前には広大な農地が広がっています。風当たりは半端ではありません。苗木の管理が行き届かず、1本2本と根付くことなく姿を消しました。何とか4本だけが踏ん張っています。そのうちの1本が満開と言えるほどの花を咲かせたのです。

 花と風といえば、美空ひばりがコンサートで必ず歌ったという『人生一路』があります。作詞は彼女に200曲以上を提供した石本美由起です。「一度決めたら 二度とは変えぬ これが自分の生きる道」と1番の歌詞は始まります。そして3番は「明日にかけよう 人生一路 花は苦労の風に咲け」と結ばれます。徳泉寺の桜も、普段は誰にも見向きもされず、風当たりの強さに耐えながら、10年の歳月を経て、見事な花を咲かせました。

 大震災後の荒涼とした被災地を見て、もうどうしようもないと諦めかけたとき、ひばりならぬ鶯の声で、思い止まりました。そして復興へ向かわなければと決めたのです。以来二度とは変えず復興への道を進んできました。向かい風追い風様々ありましたが、全国のみなさまから寄せられた「はがき一文字写経」のおかげで、昨年徳泉寺の本堂が再建できました。そして今年は風の中で咲いた桜です。まさに「サクラサク」復興という学校に合格したかのようです。

 ここでお知らせいたします。3月のカンボジアエコー募金は、224回×3円で672円でした。ありがとうございました。
 それでは又、4月21日よりお耳にかかりましょう。



徳泉寺の桜と本堂

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