テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1184話】「お召し物」 2020(令和2)年11月11日~20日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1184話です。

 日本国の天皇なのに、公の場で着物を着ることはありません。一説には平安装束と違って、いわゆるの着物は、武家に由来しているので、天皇からすれば家来が着るようなものを着るわけにはいかないとか。一方皇后は外国の要人を招いた席や、外国で着物を着ることがあります。和服姿は日本文化をアピールして余りあるからでしょうか。確かに着物には、外国人だけでなく、我々をも惹きつける特別感があります。

 さて、岡崎るみ子さんは、御詠歌の先生で、15年前から徳本寺の御詠歌講を指導していただいています。月2回の稽古の折には必ず着物でお出でになります。御詠歌は邦楽の類なので、着物と相性がいいのは勿論ですが、その場を引き締める雰囲気があります。Тシャツとジーパンではそうはいきません。

 5年前からは、テレホン法話ライブにも出演願い、法話に因んだ御詠歌を、着物姿でお唱えいただいております。その凛とした佇まいには、オーラさえ感じます。そのお唱えは一層冴えわたり、御詠歌に命が吹き込まれていくのがよくわかります。

 その姿をいつもご覧になっていた方がいます。相川孝子さんです。相川さんは、るみ子さんの出演と時を同じくして、ライブに参加して下さるようになりました。しかも東京からです。辺鄙(へんぴ)な田舎寺の上、震災間もない時で、電車もまともに走っていない頃でも、厭うことなく足を運んでいただいていました。

 今年も相川さんはライブにお出でになりました。しかも大きな荷物を抱えてです。それは、るみ子さんに是非着ていただきたいと持参された着物や帯の一式です。ご自分は着ることがなくなったので、どなたかにと願っていたそうです。素人目にもたいへん高価で、品のある着物という印象でした。着物はいらなくなっても、簡単に捨て難いものです。普通の衣装とは違って、魂が宿っているかのように感じるのかもしれません。

 るみ子さんは、私がいただいていいのでしょうかと、至極恐縮しておりました。でも見ている人は見ているのです。どんなに素晴らしい着物でも、誰かに着ていただかなければ、単なる箪笥の肥やしです。誰かを着飾り、その人がその着物にふさわしい振る舞いをすることにより、着物にも命が吹き込まれるというものです。

 相川さんがいつも、るみ子さんのお唱えする姿を見、御詠歌を聴き、そこから醸し出される命の匂いを感じていたのでしょう。この人にこそ自分の着物を着ていただければ、るみ子さんも着物も一層輝くと見込んだはずです。着物をお召し物と言いますが、お召しとは呼び寄せるという意味があります。着物は確かに、相川さんとるみ子さんを呼び寄せたのです。そういえば、天皇が乗る専用列車は御召列車と言いますが、いつか天皇の着物姿を拝見できることはあるのでしょうか。

 ここでお知らせいたします。10月のカンボジアエコー募金は、147回×3円で441円でした。ありがとうございました。それでは又、11月21日よりお耳にかかりましょう。

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