テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1172話】「野ざらしの抜け殻」 2020(令和2)年7月11日~20日


泰山木

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1172話です。

 「しがみつく」を漢字で書くと、ライオンの獅子という字の「獅」と「噛みつく」という字で「獅噛みつく」になります。獅子のように強く噛んで離さないという意味がよくわかります。

 昨年の夏は猛暑で蝉が元気でした。徳本寺の鐘撞き堂の柱や天井に、何と13匹の蝉の抜け殻が確認出来て驚きました。1カ所にそれほどたくさんの抜け殻を見たのは初めてでした。今年はさらに驚いたことがありました。13匹のうちの1匹が、鐘撞き堂の梁のところにまだしがみついているのです。確かに昨年からのもので、鐘を撞くたびに見てきたので間違いありません。

 更には、境内に泰山木の木がありますが、その葉っぱの裏に一匹の抜け殻がしがみついていました。これも一年前からと思われます。泰山木は常緑樹ですが、その固く大きな葉っぱは、結構生え替えて落ちるのです。抜け殻にしがみつかれた葉っぱは、よくぞこれまで落葉せずに持ちこたえたものだと、これはこれで驚きです。

 この一年穏やかな日ばかりではなく、大雪というほどの雪はなかったものの、大雨にも大風にも襲われて、たいへんな思いをしたことが度々ありました。野ざらしの抜け殻があっという間に吹き飛ばされても不思議ではないはずです。

 抜け殻を残して、一人前の蝉となって、精一杯鳴き続けても、その命は一週間や十日です。儚い命の象徴のように譬えられる蝉の生涯です。それなのに一年間も置き去りにされたところにしがみつき続けた抜け殻の生命力は驚嘆に値します。抜け殻だから、命というはおかしいというかもしれませんが、僅かな接点だけで健気にしがみついていた抜け殻は、生きているように見えます。

 芭蕉の句に「やがて死ぬ けしきはみえず 蟬の声」というのがあります。蝉の儚い生涯を詠んだものか、我々人間を含めての無常の感慨を込めた一句なのかは分かりません。少なくとも、一年間もしがみついていた抜け殻は、鳴き涸れて死んだ蝉たちの姿を見ていたかもしれません。鐘撞き堂や境内の泰山木にしがみついていた抜け殻ですから、私が撞く諸行無常の鐘の声を毎朝聴いて、世の移ろいを眺めていたのかもしれません。そのためにしがみついていたとしたら、その抜け殻は悟った蝉の姿でしょうか。

 さて私たちは何にしがみついていますか。地位や名誉あるいはお金ですか。やがて死ぬ景色が見えないから、大臣になった人でさえ、そのしがみつきはしがらみとなって、人の道をはずれた行いをすることもあるわけです。コロナ禍のように、ステイホーム(法務)大臣に徹して、下手な選挙活動などせずに、法律にしがみついていればよかったのに、今更「蝉ません」と謝られても後の祭りです。

 ここでお知らせいたします。6月のカンボジアエコー募金は、125回×3円で375円でした。ありがとうございました。
それでは又、7月21日よりお耳にかかりましょう。


鐘撞き堂の抜け殻



泰山木の抜け殻

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