テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1149話】「ワンチーム」 2019(令和元)年11月21日~30日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1149話です。

 今年の流行語大賞の候補に「にわかファン」や「ワンチーム」が選ばれています。いずれもラグビーのワールドカップ効果でしょう。ラグビーは国籍にこだわらないスポーツということで、代表選手の条件も緩いそうです。この度の日本チームは、日本人が16人で外国人が15人という編成でした。

 実力主義ということで言えば、国籍は関係ない方がいいでしょうが、文化や言葉の壁を超えてチームワークを培うには、それなりの努力が必要でしょう。そこで「ワンチーム」というスローガンを掲げて、目標に向かってひとつに結束しようとしたのでしょう。結果、快進撃を続け、8強入りを果たし、史上初の決勝トーナメントに進出したのです。

 たまたま、ワールドカップが終わって間もなく、奈良のお寺をお参りする機会があり、「ワンチーム」を実感しました。仏教は日本で生まれたものではなく、お釈迦さまはインドの方です。インドから中国に広まり、朝鮮半島を経て、日本に伝わりました。今から1500年も前のことです。当然のことながら、多くの日本人以外の尽力もあり、奈良盆地を中心に仏教が定着していくことになります。

 その代表的な方は鑑真和上でしょう。鑑真は中国の唐の時代の僧侶で、戒律にかけては右に並ぶものがない力量の方でした。日本から招かれたものの、当時の航海の難行から5度の失敗を重ねて、盲目の身となられました。それでも決意は固く、6度目の航海で遂に、日本の土を踏む事が出来ました。

 754年に東大寺の大仏殿の前に、戒律を授けるための戒壇を築き、時の聖武天皇をはじめ400人を超える僧侶や一般の人に対して、日本初の正式授戒を行ったのです。正式な仏教徒というのは、信仰心だけではなく、お釈迦さまから受け継がれてきた戒律を、然るべき和尚さんから授けていただく授戒に就き、仏弟子としての証明をいただいた人を言います。

 鑑真和上より200年も前に、日本に仏教は伝わっていましたが、お釈迦さまの正当な教えを伝えたのは、鑑真和上と言ってもいいかもしれません。そして律宗の総本山唐招提寺を天平3年に創建されました。その金堂正面の柱は、古代ギリシャ建築様式を思わせるエンタシスで、柱の真ん中が少し膨らんでいます。人も建築様式も日本にないものの粋を集めて、日本に仏教を定着させる一助を担ったまさに「ワンチーム」です。

 何事も明確なゴールを目指すという決意があれば、様々な壁を乗り越え、多様性を尊重し合う「ワンチーム」になれて、望外の結果をもたらす事が出来ます。というより、元々空や海に国境の線が引いていないように、壁などないのだという意識は、これからの時代は特に大切です。こんな言葉に出会いました。「魚たちにとってみれば、どこであれ『ひとつの海だ』」。この言葉に頷いた方は、鑑真和上の大を乗り越えてきた「戒()律」も少しは納得できるでしょうか。

 それでは又、12月1日よりお耳にかかりましょう。

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