テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1144話】「骨身を惜しまず」 2019(令和元)年10月1日~10日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1144話です。

 お寺では墓地管理者として、納骨の際にはその人の「死体火葬済証」を預かります。お骨の身元証明書になるからです。お骨は外見上は、どなたのものかは特定はできません。そこで死亡者の住所・氏名等が書かれて、確かにこの方の火葬が済みましたという火葬場からの証明書が必要になるのです。

 しかし、戦死者の遺骨は、そう簡単にはいきません。先ごろ、第2次世界大戦後のシベリア抑留者の遺骨収容をめぐって、厚生労働省のずさんな対応が明らかになりました。1999年から2014年に9カ所の埋葬地から収容した遺骨のうち、597人分が日本人でない可能性があるのに、公表せずロシア側にも伝えていませんでした。現地の鑑定人は日本人の骨を見慣れておらず、取り違えの一因になったとの指摘もあります。

 死亡した日本人のシベリア抑留者は約5万5千人で、これまでに日本に帰ってきた遺骨は約2万1900人分です。半分以上の方がまだ戻っていません。その上取り違えがあったとは、泣きっ面に蜂ではないですか。想像を絶する過酷な抑留生活の果てに、非業の死を遂げた方が浮かばれません。遺族の方の無念さも察するに余りあります。厚生省はもっと親身になって、遺骨に向き合うべきです。

 一方、東日本大震災で身元不明犠牲者の遺骨が多数存在しました。宮城県警では遺体の似顔絵を作成して、情報提供を呼びかけていました。震災から8年が過ぎた今年4月に、ある一人の身元が判明しました。当時60歳の女川町に住む平塚さんという女性でした。平塚さんの遺体は震災1カ月後に石巻市泊浜の海上で見つかり、遺体のDNAを採取していました。親族も行方不明届を出していましたが、身元を特定できずにいました。似顔絵を見た親族が、平塚さんに似ていると気づきました。

 しかし、それを裏付けるDNAが、手元になければ証明できません。いろいろ事情を聴いているうち、平塚さんから届いた複数の手紙を持っている親族がいました。このうち、2009年5月18日女川郵便局消印のある切手の添付面の唾液から検出されたDNAが、遺体から取ったDNAと型が一致して、平塚さんと特定できました。平塚さんの遺骨は無事、親族の元に帰りました。

 10年前に貼った切手がこのような形で役に立つとは、事実は小説よりも奇なりです。それにしても、今どき切手を貼る手紙も少なくなり、自分で舐めて切手を貼る人はどれだけいるでしょうか。これからは自分の身元証明のつもりで、唾液で切手を貼って手紙を出しましょうか、と思いましたが、今月から郵便料金が値上げになりました。厚生省も郵便局も身を惜しまず、国民に思いやりを持ってください。

 ここでお知らせいたします。来る10月27日(日)午後2時より、徳本寺において「第13回テレホン法話ライブ」を行います。ゲストはソプラノ歌手の千石史子さん。入場は無料です。ご来場をお待ち申し上げます。

 それでは又、10月11日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【1321話】
「0歩目の奇跡」
2024(令和6)年9月1日~10日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1321話です。 1996年8月21日(水)甲子園の決勝戦は、松山商と熊本工。3対3の同点で10回裏熊本工の攻撃、1死満塁で3番本多選手。松山商は絶体絶命のピンチ。監督は守備交替で矢野選手をライトに起用。その直後、本多選手の打球は高々とライトへ、3塁ランナーは俊足の星子選手。実況中継も「行った、これは文句なし」と断言したほど、熊本... [続きを読む]

【1320話】
「必死すなわち」
2024(令和6)年8月21日~31日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1320話です。 パリ・オリンピックの新競技「ブレイキン」は、1970年代アメリカニューヨークの貧困地区の路上が発祥。縄張り争いに疲れたギャングのボスが「音楽と踊りで勝負しよう」と呼びかけたのが始まりとか。オリンピックにふさわしいです。 オリンピックは元を糺(ただ)せば、戦争の代わりに様々な争... [続きを読む]

【1319話】
「お盆の結集(けつじゅう)
2024(令和6)年8月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1319話です。 「如是我聞」(かくの如く我聞けり)と、お経は始まります。お経はお釈迦さまの教えですが、当初それは文字で記録されませんでした。後に聞いた記憶をたどって、経典が編集されました。よって、「私はこのようにお釈迦さまの言葉を聞いた」という断りを最初に述べるわけです。 お釈迦さまが亡くな... [続きを読む]