テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1137話】「月とスッポン」 2019(令和元)年7月21日~31日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1137話です。

 「一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍である」月の表面を歩いた史上初の人類となったアームストロング船長の言葉です。ちょうど50年前の1969年7月20日に、アメリカの宇宙飛行船アポロ11号が月面着陸した時のことです。当時の写真では、地球以外の地面に記した人類初の足跡がくっきりと映っています。そこは砂浜のように見えました。

 さて、私もここがほんとうに地球なのかと、思ったことがあります。あの東日本大震災です。誰も予期していない、誰の想定をも超えた惨状は、大袈裟ではなく、どこかよその星で起きた出来事に思えました。

 私が最初に聴いた地震情報では、6メートルの津波が来るということでした。しかし山元町を襲った大津波の最大の高さは、12.2メートルです。浸水面積は町全体の約37パーセントで、居住地域に限れば、50パーセント以上が浸水しているのです。流出した家屋は一千棟を超えています。

 震災から1週間後、ようやく車を走らせることができました。JRの線路も流され、逆さまになった家や、自家用車やトラクター、洗濯機やテレビ、靴やアルバムなど日常の断面が無残な姿を晒していました。もはや人が住める世界ではなくなったと思ったほどでした。

 その間を縫って、もうひとつの住職地徳泉寺に辿り着きました。そこは海から300メートルで、県道から200メートルほど海側に入ったところにあります。県道から先は、車では行けませんでした。まるで砂浜状態なのです。あまりにも海から近いせいか、瓦礫など何もないのです。車から降りて歩き始めました。異次元の世界に踏み込むような心境で。

 境内に着いてみれば、本堂も仏具もすっかりなくなっていました。墓石はすべてなぎ倒され、砂に埋もれていました。しかし、足元の白い砂浜と空の青さがあまりにきれいでした。悲壮感が湧いてこないのです。あれで瓦礫が散乱していたら、落ち込んでいたかもしれません。サッパリしすぎた光景は、「放てば手に満つ」の想いを抱かせてくれました。もはや失うものは何もないのですから。

 あれから8年4カ月が経ち、徳泉寺復興の姿が見え始めた今日この頃。50年前の人類初の月面着陸に重ね合わせている自分がいます。県道から砂浜に踏み込んだあの一歩は、私にとっては月の世界を歩くようなものでした。異次元の世界でも夢物語を描いてみよう。やがて「はがき一文字写経」で本堂再建という発願になり、日本中から寄せられた写経のおかげで実現に向かっています。アームストロング船長の一歩とは月とスッポンの差はありますが、徳泉寺にとっては大きな飛躍です。

 ここでお知らせいたします。徳泉寺復興の仕上げとして復興誌『青空があるじゃないか』製作のためのクラウドファンディングを展開中です。「レディーフォー徳泉寺」で検索してみて下さい。
【詳細はコチラ】

 それでは又、8月1日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【1325話】
「はらこめしと仏飯」
2024(令和6)年10月11日~20日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1325話です。 わが山元町は小さな田舎町ですが、この時期、行列ができる店があります。「はらこめし」を提供している店です。はらこめしは、鮭の煮汁でご飯を炊き込み、その上に鮭の切り身とはらこをのせたものです。はらことは鮭の卵いわゆるイクラのことです。隣の亘理町荒浜が発祥の地ですが、亘理郡内に行き渡っていて、家庭ごとに自慢の味付けがあ... [続きを読む]

【1324話】
「少年の心
達磨の心」
2024(令和6)年10月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1324話です。 心理学者の児玉光雄は、大リーグの大谷選手を「少年の心を持つスーパーアスリート」と表現しています。少年時代から野球を楽しむ心を忘れず、自発的に物事に取り込める姿勢が、想像を超えた活躍に繋がっているというのです。 大谷選手は50-50つまり、50本塁打50盗塁という夢のような記録... [続きを読む]

【1323話】
「土俵に彼岸を見た」
2024(令和6)年9月21日~30日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1323話です。 大相撲秋場所6日目結びの一番。大関豊昇龍が平幕王鵬にすくい投げで敗れました。余程悔しかったのでしょう。土俵を拳(こぶし)で突き、きちんと礼をすることなく、花道に向かったところ、審判長に呼び止められ、再び土俵に上がります。そこでも礼が合わず再びやり直しをさせられました。洒落ではあ... [続きを読む]