テレホン法話
~3分間心のティータイム~
【第1131話】「青空と上棟式」 2019(令和元)年5月21日~31日
住職が語る法話を聴くことができます
お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1131話です。
その日は恨めしいほどの青空が広がっていました。東日本大震災から1週間経った3月18日、私はやっと兼務住職地である徳泉寺に辿り着きました。ここ山元町は未曾有の被害となり、海から300メートルの徳泉寺も、本堂等すべてが津波で流されていました。瓦礫ひとつ残っていない、白い砂浜状態でした。普段はこんな青空なのに、どうしてあれほどの震災が起きたのかと、嘆かずにはいられませんでした。
同時に「何だ青空があるじゃないか」と思ったことも事実です。何もかもなくなっても、青空には見捨てられていなぞという気持ちです。でも、世の中全体が、不安と恐怖と悲しみに覆われているときに、「青空があるから大丈夫」などと軽率なことは言えません。その言葉は封印しつつも、何とかなる、何とかしなければと心を奮い立たせました。
それからちょうど8年2カ月たったこの5月18日、恨めしい青空は、澄み渡った青空になっていました。徳泉寺の本堂客殿工事の上棟式が行われたのです。大震災1年後から全国の方に呼びかけた「はがき一文字写経」による徳泉寺復興が、実を結んだのです。北海道から沖縄まで、延べ2240人の方から、納経志納をいただきました。はがきの枚数で1900枚、納経料は3700万円を超えました。
ほとんどの方が、徳泉寺の「と」の字も知らないし、山元町も訪れたことがなかったことでしょう。しかし、あの惨状を知るにつけ、何かできることはないかという想いに駆られて、写経された方も多かったのかもしれません。ほんとうに有難いご縁に、ただただ感謝あるのみです。
上棟式は堂内において、工事の安全と速やかな完成を祈願する法要を行いました。その後屋外で古式ゆかしく、棟梁の音頭の下、参列者全員で紅白の綱を引き、棟木を上げる儀式。そして屋根のてっぺんに棟木を打ち付ける槌打(ついうち)の儀式と続きます。めでたく棟木が上がったところで、住職・総代・棟梁が足場にのぼり、餅とお金を撒きました。
屋根には五色幡など都合5本の柱が立っています。左右の柱には大きな弓矢が設置されています。向かって右の弓は、赤い弦で天に向かって弓を引いています。左の弓は、白い弦で地面に向かって弓を引いている姿です。これは天と地の悪魔を退治し、建物を守るためです。そして、悪魔を追い払ってそれで終わりではなく、これからも悪魔が怒り出さないようにと、鎮める意味で餅を供えます。それが餅撒きに繋がっているようです。
大震災ももしかした天と地の悪魔だったのでしょうか。でも上棟式で、見事に弓矢が放たれたので、もう大丈夫でしょう。何より本堂完成の暁には、餅ならぬ、一文字一文字のみなさまの写経がお供えされるのですから。五月晴れの上等な青空がもたらした上棟式でした。
それでは又、6月1日よりお耳にかかりましょう。
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