テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1335話】「昭和100年に想う」 2025(令和7)年1月21日~31日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1335話です。

 今年2025年は昭和の年号で言い換えると「昭和100年」になります。私は昭和25年生まれで、西暦では1950年です。区切りのいい数字の年に生まれました。私にはもうひとつ区切りのいい年があります。それは昭和50年です。この年に大本山總持寺に上山して、僧侶としての修行の第一歩を踏み出したのです。昭和25年にこの世に生まれ、25年後に僧侶に生まれ、今年は僧侶として50年という大きな節目です。

 思えば50年前の3月、墨染めの法衣・手甲脚絆・草鞋履き・網代笠姿で、大本山總持寺の玄関に立ちました。案内を乞う木版を3打して、大きな声で次のように告げたのです。「御開山拝登並びに免掛搭(めんかた)(よろ)しう」つまり「本山を開かれた瑩山禅師様の元で修行致したく、禅堂への入門を許可願います」という内容です。掛搭とは禅堂にある鉤(かぎ)に荷物をかけることで、そこに滞在すること、つまり留まって修行することを言います。

 やがて古参和尚さんがやって来て「何しに来た」と詰問されます。「修行に参りました」「修行はここでなくてもできる、帰れ」。勿論、ここで引き下がる訳にはいきません。またしばらくして古参和尚さんが現れて「修行とは何だ」「御開山様に仕えることです」「そんなことでは修行にならん、帰れ」とにべもありません。そんなことが、1時間も2時間もあって、やっと玄関を上がることを許されました。最初に名前等を到着帳に書かなければなりません。長時間同じ姿勢をしていたために全身がこわばり、また緊張してなかなか字を書けなかったことを覚えています。

 評判の飲食店の行列に何時間も並ぶのとはわけが違います。これからどんな修行が待っているのか不安でしかないのに、長時間立たせる「庭詰め」には、訳があります。ほんとうに修行する気があるかどうか見極めているのです。この庭詰めに堪えられないような者は、これからの修行についていけないということです。事実、入門を許可されてからの修行は、それまでの生き方を一変させるものでした。朝起きてから夜寝るまで、食事も洗面も坐禅もお経も掃除もすべては仏道であることを嫌というほど叩き込まれました。

 あの時帰れと言われて素直に帰ってしまったのでは、今の私はありません。許可されるまではどんなことがあっても動くまいと覚悟はしました。今さら帰るわけにはいかない、自分で決心して本山の門を叩いたのだからという思いでした。自分に嘘をつきたくなかったのす。道元禅師は「発心正しからざれば万行虚しくほどこす」とお示しです。最初の一歩の踏み出しがその後を決定づけるということでしょう。おかげさまで50年前に踏み出した一歩の方向に、迷わず歩き続けて今日まで来ることができました。あの時の「帰れ」の一言は追い返す言葉ではなく、修行に向かう背中を押してくれた言葉でした。

 それでは又、1月21日よりお耳にかかりましょう。 

最近の法話

【第1334話】
「年賀状じまい」
2025(令和7)年1月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1334話です。 昨年のお正月、能登半島の人たちに、年賀状は届いたのでしょうか。地震発生が元旦の午後4時10分でしたので、配達はほぼ終わっていたかもしれません。しかし、その後の災害で混乱の中、年賀状を読めなかった人もいたことでしょう。また年賀状が瓦礫に埋もれたり、火災や津波で失われたかもしれませ... [続きを読む]

【第1333話】
「身(巳)から出た錆」
2025(令和7)年1月1日~10日

news image

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1333話です。 あけましておめでとうございます。今年の干支の巳という字に似ているものに、已(すでに)と己(おのれ)という漢字があります。書き順の3画目が上にくっついているのが巳であり、中ほどで止めるのが已、下についているのが己です。それを覚えるのにこんな歌があります。「ミは上に、スデニ・ヤム・... [続きを読む]

【1332話】
「プラスの縁マイナスの縁」
2024(令和6)年12月21日~31日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1332話です。 「元旦は卑怯ですよ」。能登半島地震で里帰りをしていた家族を亡くした人の言葉です。正月でなければ家族を亡くすこともなかった。せめて一日でもずれていればとやるせない思いが言わせたのでしょう。 あれから間もなく1年が経とうとしています。この時期になると誰しもが1年を振り返りますが、... [続きを読む]