テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【1316話】「不二山」 2024(令和6)年7月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1316話です。

 東京都国立市では、駅前から伸びる通りを富士見通りと称しています。晴れた日には富士山を望めるからです。2年前にこの通りにマンション建設の話が持ち上がりました。地元では景観をめぐって反発したものの、建築基準法上の問題はないということで着工、先月完成しました。しかし引き渡しまじかになって、建て主の積水ハウスは解体を決定しました。

 違法建築でもない全くの新築マンションを使用する前に取り壊すとは驚きです。10階建て総戸数18戸の建物です。建設費用も解体費用も莫大なはずです。解体理由として「建物が富士山の眺望に与える影響を再認識した」といいます。確かに完成した建物に遮られて、見えるはずの富士山が半分しか見えず、富士見通りの名が泣いています。富士山眺望に対する検討が不十分だったことを反省し、企業イメージの悪化を危惧した経営判断のようです。

 普通の山なら、ここまでのことはなかったかもしれません。富士山の存在感はけた外れです。富士山を「二つにあらず」という意味で「不二(ふに)」と書き「不二(ふじ)」と呼ぶことがあります。お菓子の不二家でお馴染みでしょう。高さや姿、何をおいてもまさに二つとない霊峰と言えます。

 さて、不二といえば、曹洞宗には「修証不二」という教えがあります。〈修〉は修行、〈証〉は悟りということです。普通、修行の果てに悟りがあるという風に、修行と悟りを二つに区別しがちです。本来の意味は、修行そのものが悟りであり、何かのためにという邪念を抱かず、ただひたすらに行を修しなさいということです。例えば、朝目を覚ますことから始まり、顔を洗う食事をする、勉強や仕事に打ち込む、迷わず行住坐臥に徹している姿は、悟りと同じと言えます。

 何だそんなことかと思う人もいるかもしれませんが、今朝迷わず目が覚めたでしょうか。文句を言わず朝ご飯をいただき、心からごちそうさまが言えたでしょうか。一つひとつ振り返ると、仏さまにふさわしくない言動がなかったでしょうか。ご飯と私、仕事と私がひとつになっているつまり、不二のとき、立派な修証不二と言えます。それもこれも仏の教えが念頭にあったればこそできる修行なのです。

 今回の積水ハウスにとって、富士山は仏の教えのようなものです。富士山を見えなくするとは、仏の教えを隠してしまうようなものです。会社だけの利益を追求して、地元に想いを致していないのは、会社と地元を二つに区別していたからでしょう。そこに気づき大きな代償を払っても、富士山のおかげで「不二」の修行を示せたかもしれません。企業たるもの、顰蹙(ひんしゅく)買ってはいけません。誠意を売るようでなければ・・。

 ここでお知らせいたします。6月のカンボジアエコー募金は、685回×3円で2,055円でした。ありがとうございました。
 それでは又、7月21日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【1325話】
「はらこめしと仏飯」
2024(令和6)年10月11日~20日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1325話です。 わが山元町は小さな田舎町ですが、この時期、行列ができる店があります。「はらこめし」を提供している店です。はらこめしは、鮭の煮汁でご飯を炊き込み、その上に鮭の切り身とはらこをのせたものです。はらことは鮭の卵いわゆるイクラのことです。隣の亘理町荒浜が発祥の地ですが、亘理郡内に行き渡っていて、家庭ごとに自慢の味付けがあ... [続きを読む]

【1324話】
「少年の心
達磨の心」
2024(令和6)年10月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1324話です。 心理学者の児玉光雄は、大リーグの大谷選手を「少年の心を持つスーパーアスリート」と表現しています。少年時代から野球を楽しむ心を忘れず、自発的に物事に取り込める姿勢が、想像を超えた活躍に繋がっているというのです。 大谷選手は50-50つまり、50本塁打50盗塁という夢のような記録... [続きを読む]

【1323話】
「土俵に彼岸を見た」
2024(令和6)年9月21日~30日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1323話です。 大相撲秋場所6日目結びの一番。大関豊昇龍が平幕王鵬にすくい投げで敗れました。余程悔しかったのでしょう。土俵を拳(こぶし)で突き、きちんと礼をすることなく、花道に向かったところ、審判長に呼び止められ、再び土俵に上がります。そこでも礼が合わず再びやり直しをさせられました。洒落ではあ... [続きを読む]