テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1246話】「ないないづくし」 2022(令和4)年8月1日~10日


お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1246話です。

「育児ないないづくし」というのがあります。「冷房の中で暑さがない おやつが過ぎて空腹がない テレビの見過ぎで考えない 何でもホイホイ我慢がない これではまともに育たない」生まれ育った環境は、その人の人生に大きな影響を与えます。

この人の人生も本当の意味での「ないないづくし」だったのでしょうか。街頭演説中の安倍晋三元首相を銃撃した川上徹也容疑者は、母親が1億円もの献金をした宗教団体へ恨みがありました。その教団の「シンパの一人」と位置付けて、安倍氏を狙ったと供述しています。お金もなければ、母親の愛情も受けてこなかったのでしょう。すべての宗教は、人が幸せになるためにあります。献金したおかげで家庭が崩壊したのでは本末転倒です。ただ、今回のような事件を起こしても、何ら恨みを晴らすことはできず、恨みを買うだけでしょう。母親も容疑者も心が逆さになっています。

さて、間もなくお盆です。正式には盂蘭盆(うらぼん)と言います。起源に諸説はありますが、ひとつには次のような母親の話が伝わっています。お釈迦さまの弟子の目連は、神通力に長けていました。その力で亡くなった母親の様子を探したところ、餓鬼道に堕ちて逆さ吊りの苦しみに遭っていました。驚いてお釈迦さまに、「どうして私の母親なのに、あのような苦しみに遭わなければならないのですか。助け出す方法はありませんか」と尋ねます。「目連、お前の母親は、我が子には食べ物でも着る物でも何でも与えてくれた良い親だったろう。しかし他の子どもたちには辛く当たったからだよ。苦しみから救うには、間もなく雨期が明けると、山から修行僧が下りてくる。できるだけ多くの修行僧を招き、お供えをしてお経を挙げていただきなさい」

お釈迦さまの教えの通りにすると、母親は逆さ吊りの苦しみから救い出されました。逆さ吊りの苦しみのことを「ウランバーナ」といい、それが「盂蘭盆」と音訳されました。目連の親孝行心にあやかり、亡き人にお経を挙げたりお供えをするというお盆の風習になっています。勿論、餓鬼道や逆さ吊りの苦しみが、現実に存在するわけではありません。家庭を顧みず盲目的に献金に走る母親も、盲目的に我が子だけを愛する母親も、心が逆さまになっていますよと、諭しているのでしょう。

般若心経には「遠離一切顛倒夢想」という一句があります。顛倒とは転倒のことで、倒れる逆さにするという意味です。顛倒夢想つまり逆さまな考えは、一切捨てなさいということです。そうすれば「無有恐怖(むうくふ)」恐れがなくなり、「究竟涅槃(くぎょうねはん)」悟りを実現できますと説きます。お盆でお帰りになったご先祖さまに尋ねてみてください。「この世に未練もない 恨みも恐れもない 欲もなければ こだわりもない」と、「あの世ないないづくし」を語ってくれることでしょう。

それでは又、8月11日よりお耳にかかりましょう。

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