テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1157話】「涙の跡」 2020(令和2)年2月11日~20日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1157話です。

 その修行僧は、合掌したまま、確かに泣いていました。何十人もの修行僧の中で、泣いているのは、彼一人だったかもしれません。大本山總持寺の授戒会でのことです。

 授戒会とは、1週間かけて仏の戒め教えである戒法を授けていただく仏道修行です。お釈迦さまから脈々と伝わる教えを受け継いだことを認められると、師匠である戒師様より血脈を授かります。血脈とは仏弟子たる証明書です。そのことにより、漠然とした仏教徒ではなく、仏の教えを実践する仏弟子なのだという自覚が生まれます。

 そのためには、加行(けぎょう)が大事です。加行とは行を加えるということで、修行を積み重ねることを言います。お経を唱える・坐禅をする・教えを聞く・手を合わせる・食事をする・睡眠をとる、すべてが仏の行であるとの自覚をもって取り組むのです。

 加行終盤の夜、わずかな灯りの中で懺悔道場が行われます。懺悔とは悔い改めることで、本来の仏の心に立ち返る行いです。私たちには知らず知らずのうちに犯している小さな罪・科が無数にあります。そのため「小罪無量」と書かれた小さい紙札を戒師様に預けて、「小罪無量」と唱えて懺悔の想いを込めます。

 その後、薄暗い本堂で、シルエットになった大勢の和尚さん方が、仏名を唱え鈴を鳴らして、身も心も清らかになった参加者の周りを賛嘆して回る様は圧巻です。これまでの加行が報われたと思う瞬間でもあります。件の修行僧の頬は、この時光っていたのでした。そして彼は本山の布教弁論大会で、この時の体験を次のように発表して、優秀な成績を修めました。

 「『できない自分』が受け入れられず、いつまでも失敗を引きずったりして、生き辛さを感じていました。やりきれない気持ちを、小罪無量の札に込めて戒師様にお渡ししました。受け取っていただいたときは『こんなに至らない私でも仏様は拒まれないんだ。このままの私でもいいんだ』と深い安心を覚えました。その後の賛嘆の響きは、観音さまの底知れぬ慈悲と推し量れない温かさに包まれた気がして、涙が止まりませんでした」。純粋に仏道を求める修行僧の正直な想いは、聴く者の心を打ちます。

 さえ、2月15日お釈迦さまの命日に合わせて、涅槃図を掲げます。そこにはお釈迦さまのご遺体の足にすがって泣いている老女がいます。長年お目にかかりたいと旅を続けるも叶わず、やっとお会いできた時は、もはや一言も声を聴くことはできませんでした。そしてお釈迦さまが亡くなる時は、如来のお姿で無垢の金色のはずでしたが、足の先がシミになって変色したところがありました。それは老女の涙がしみ込んだ跡でした。お釈迦さまが老女の志の深い事を讃え、証としてて消さなかったのだろうと伝えられています。同じように修行僧の志の深き涙の跡は、自分自身の行く末の何よりの道しるべとなって消えることはないでしょう。
ここでお知らせいたします。1月のカンボジアエコー募金は、144回×3円で432円でした。ありがとうございました。それでは又、2月21日よりお耳にかかりましょう。

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