テレホン法話
~3分間心のティータイム~
【第1097話】「自分はできる「渡し守」」 2018(平成30)年6月11日-20日
住職が語る法話を聴くことができます
お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1097話です。
昭和51年は「クロネコヤマトの宅急便」が、営業を開始した宅配業務元年です。しかし営業初日の注文はたった11個だったそうです。同じ年に昭和歌謡の名曲「矢切の渡し」が発表されました。最初はちあきなおみの「酒場川」のB面の曲だったので、あまり知られず、ヒットするまで6年の歳月を要しました。
現代の宅配便をみれば、輸送革命を起こしたともいえるかもしれません。それと時代を同じくして歌われた「矢切の渡し」には、効率的で便利な宅配便の世の中になると予感して、情緒豊かな渡し舟という輸送手段に名残を惜しんでいるかのような響きがあります。どちらも世の中に浸透するまでには、多少の時間がかかりましたが、それは時代の変化を受け入れるまでの人々の気持ちの揺れだったのでしょうか。
さて、先日曹洞宗婦人会東北管区研修会でお話をする機会がありました。曹洞宗婦人会には「会員の誓い」というのがあります。「おしみない心で どうぞさしあげます/やさしい笑顔で どうぞしっかり/幸せを祈って どうぞおさきに/手をとりあって どうぞごいっしょに/私は、今日も菩薩さまの願いに生きます」。つまり曹洞宗の4つ教えの「布施 愛語 利行 同事」の心です。
そこで私は申し上げました。「私たちが無人島で一人で暮らしている状況なら、この4つの誓いはいらないでしょう。現実は好き嫌いにかかわらず、相手があって生きています。というよりは、人はひとりでは生きられません。多くの人や物に支えられ生かされて生きています。だから仏の教えに生きるものとして、私たちも支える立場になれる生き方がたいせつです」と言って、渡し舟の喩えを出しました。
「矢切の渡し」にも渡し守と言われる船頭さんがいます。こんな歌があります。「人をのみ渡し渡して おのが身は 岸にのぼらぬ渡し守かな」。この「渡し守」的な生き方こそ、4つの誓いの実践と言えます。自分は仏にならずとも、他のみんなに仏になっていただきたいと願うそれこそが菩薩さまです。
便利さの象徴ともいえる宅配便は、ご遺骨まで運んでくれるようになりました。ご遺骨を人に預けて平気でいられる、或いはご遺骨を託する人がいないという人にとっては、良いサービスかもしれません。しかし私たちは一人では生きられないのだから、お互いに血の通った支え合いということを今一度思い直してみなければなりません。その上でぬくもりのある「渡し守」的な生き方を進んでいたしましょう。誰がやらなくても、自分はできます。「わたしもり」だから。
ここでお知らせ致します。5月のカンボジア・エコー募金は、176回×3円で528円でした。ありがとうございました。
それでは又、6月21日よりお耳にかかりましょう。
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