テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第777話】「蓮と太陽」 2009(平成21)年7月21日-31日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第777話です。
 15年ほど前にカンボジアを訪れた時に出会った、ある子どもたちの光景が忘れられません。やっと内戦が終わって平和の兆しが見え始めていた頃です。貧しい暮らしに変わりはありませんが、子どもたちは実に元気でした。小さな川のほとりを歩いていると、5〜6人の子どもたちが泳いでいました。素っ裸です。川の水はまるで泥水。それでも子どもたちは、お構いなしで、潜ったり、水を掛け合ったりしてはしゃいでいます。
 潜っては顔を出すその子どもたちの笑顔は、まるで蓮の花のようでした。「泥中の蓮」という言葉があり、蓮は仏教のシンボル的な花です。根は泥の中にあってもきれいな花を咲かせる蓮は、煩悩という泥にまみれることなく、悟りの花を咲かせましょうという仏の教えの象徴と捉えているのでしょう。ともあれ、日本から比べたら想像もできないほどの劣悪な環境の中にあっても、「泥中の蓮」のようなカンボジアの子どもたちの姿が眩しかったことは、強く印象に残りました。
 目を日本に転じると、川で水泳ぎをする子どもを見かけなくなって、久しくなります。カンボジアに比べたら日本の川はずっときれいです。それでも様々な環境の変化で、泳げる川は減っているのでしょう。その上、夏休みになっても自然と戯れる子どもたちの姿が見られないのは不自然であり、淋しいものです。
 小学5年から高校2年までを対象とした生活実態調査によりますと、「忙しくて疲れやすく、もっと眠りたい」という回答が半数以上あったといいます。携帯電話に費やす時間も増え、手帳でスケジュールの管理をしたり、栄養剤を飲むなど、「子どもの大人化」が進んでいます。子どもの時から大人のような生き方をしなければならないというのはどこか変です。どう見ても、子ども時代は大人時代よりずっと短く、しかも2度と戻ることはできないのですから、子どもは子どもらしい生活に夢中になるべきです。
Img_0648_55.jpg 阿久悠さんの 歌詞に「太陽に向かうかぎり 影を踏むことはない」という一節があります。子どもなら、しかも夏休みは、太陽こそが友達であり、親であり先生でもあるでしょう。思いっきり外で太陽と向き合って遊んで、大人が抱える影のような不安など、今は知らん振りしましょう。カンボジアの子どもたちは不安な社会情勢にあっても、の花のような笑顔を泥水に浮かべていました。だから、日本の子どもたちよ、(はす)に構えていないで、太陽に向かおう。
それでは又、8月1日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【第1351話】
「明月院ブルー」
2025(令和7)年7月1日~10日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1351話です。 「紫陽花や きのふの誠 けふの嘘」正岡子規の句です。紫陽花の色の変化を、人の心の変わりようや迷いに喩えているのでしょうか。紫陽花の季節、アジサイ寺・鎌倉の明月院を拝観する機会がありました。 山門に至る緩やかな石段の両脇に咲く夥しい紫陽花に迎えられました。境内も紫陽花の海という感じです。「明月院ブルー」と称される... [続きを読む]

【第1350話】
「欲と水」
2025(令和7)年6月20日~30日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1350話です。 46億年前、地球ができたころ、まだ海はありません。3億年ほど経って、地球の表面が冷めると雨が降り始めました。何と千年間も降り続けたそうです。現在のような海になるまでには、更に7億年を要します。こうして36億年前に生命の起源が海に生じたと考えられます。ヒトの出現はずっと後のことで... [続きを読む]

【第1349話】
「背番号3の背中」
2025(令和7)年6月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1349話です。 好きな数字はと訊かれたら、迷いなく「3」と答えます。勿論長嶋茂雄さんの背番号だからです。小学生の頃その背中に憧れました。ユニフォームなど買ってはもらえないので、「3」という背番号を手作りした覚えがあります。 当時まだテレビはなく、たまにラジオで野球中継を聴くぐらいでした。そし... [続きを読む]