テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1340話】「彼岸の人」 2025(令和7)年3月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1340話です。

 八木澤克昌さんは、誕生日を2日後に控えた1月7日、66歳で急逝しました。私も顧問を務める公益社団法人シャンティ国際ボランティア会(SVA)で、タイ・ラオス・カンボジア・ミャンマーの事務所長を歴任した方です。アジアにおけるNGOの先達として、困難な人々のために生涯を捧げたのです。その功績により、外務大臣賞・読売国際賞やカンボジア国王勲章を受章しています。

 1980年SVAの前身である「曹洞宗東南アジア難民救済会議」に入職し、タイ・バンコク事務所に赴任しました。カンボジアから戦争を逃れてタイで難民キャンプ生活をしているカンボジアの子どもたちに、絵本を届けることが活動の始まりでした。リュックに何十冊もの絵本を詰めて、30キロの道のりをヒッチハイクで届けたと言います。現在のSVAの移動図書館活動の原点です。大学時代にお兄さんを亡くし、お父さんから「人は自分のためにだけ生きていてはいけない。人のために生きなさい」と言われたたことも、大きな転機となったようです。

 さて、私が曹洞宗東北管区教化センターの責任者だった時、センター設立30周年記念事業として、カンボジアに移動図書館車を贈ることになりました。現地での贈呈式のため、一行12名でカンボジアを訪れました。しかし肝心の車がないのです。カンボジアで日本車を輸入するためには、アラブのドバイを経由しなければならないとか。その船が遅れて贈呈式に間に合わないというのです。

 ここからが当時カンボジア事務所長八木澤さんの本領発揮です。たまたま日本の大使館が、同じ型の車を最近購入したことを知り、彼の顔で一時借用することができました。車の側面には贈り主の名前を書いた仮のステッカーを張り、贈呈式に間に合わせてくれました。タン・クロサウ村小学校でのお披露目式には千人もの人々が集まり、熱烈歓迎の段取りまで整っていました。彼のこの離れ業は、日頃如何に地元に根差して活動しているかを物語っています。今だから言える18年前の出来事です。

 彼ほど現場主義に徹した人を知りません。タイの女性と結婚しタイに暮らしていました。と言ってもクロントイスラムという貧民街にです。「スラムに暮らせば、スラムの問題を自分の問題として関われる」と言うのです。「いつまでスラムに住むの」と高校生になった娘さんに泣かれたこともあったそうですが、信念を貫きました。スラムの人々と泥水に入って柱を建て、困難や苦しみを我がこととして、支援に心血を注いだのです。

 「身は泥中に在りと雖も 心は天上の月に似たり」という言葉があります。八木澤さん、あなたこそ人々の困難や苦しみという闇を照らす月のようです。「己れ未だ度(わた)らざる前に一切衆生を度さん」という彼岸の教えそのものです。今頃は彼岸に渡り、また移動図書館を始めているのでしょうか。少しヒッチハイクが早すぎましたけどね。
  
 ここでお知らせいたします。2月のカンボジアエコー募金は、1,029回×3円で3,087円でした。ありがとうございました。それでは又、3月21日よりお耳にかかりましょう。 

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