テレホン法話
~3分間心のティータイム~
【第1339話】「旦過寮」 2025(令和7)年3月1日~10日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1339話です。
正月元旦の「旦」という字は「あした」とも読み、日の出の頃をいいます。禅宗の道場には旦(あした)に過ぎると書く「旦過寮(たんがりょう)」という寮があります。夕べに来て早朝に去る、つまり行脚僧が寺に一夜泊まるところです。転じて、修行僧が正式に入堂する前に何日か滞在するところも指します。
旦過寮は寺に入ることは許されたものの、まだ本格的な修行に入る前のお試し期間のようなものです。同期の修行僧何人かと寝起きを共にしますが、私語を交わすことはできません。朝の勤行と食事・掃除以外は、一日中坐禅をし続けるだけです。世の中との接点は一切断たれて浦島太郎状態です。
東日本大震災が起きた時、T和尚さんは、福井県の大本山永平寺に入ったばかりで、まさに旦過寮詰めでした。彼の師匠さんのお寺は宮城県の沿岸部に位置し、甚大な被害があったところです。できたばかりの庫裡は津波が2階まで達し、本堂には流木が突き刺さり半壊状態です。しかし、旦過寮の彼は、そんなことを知る由もありません。
ある時、先輩の和尚さんがこっそり大震災が起きたことを教えてくれました。しかも自分が修行を終えて帰るべき寺が、とんでもないことになっているというのです。もはや旦過寮どころではありません。犠牲者もたくさん出ているとか。自分の家族は大丈夫だろうか。先輩が隠して持ってきてくれた新聞を便所に持ち込み、犠牲者に家族の名前がないかを夢中で探しました。
旦過寮を終えて少し落ち着いた頃、先輩和尚さんが師匠さんに連絡を取ってくれました。「家族は全員無事だが、寺も含め町全体がとんでもないことになっている。心配だろうが帰ってきてもどうにもならない。寝泊まりするところもないのだから。修行に専念しなさい」という師匠からの言葉を伝えられました。
旦過寮はそれまでの生活から一変した極限の試練の場です。おまけにTさんは、断片的に耳に入る被災状況にも、想像が追いつかず、不安と心配が渦巻いていました。寺に帰らず自分だけが修行していていいのだろうかと、悶々とする日々を過ごしたそうです。それでも師匠の言葉と同期の修行仲間にも励まされて、今自分は修行に向き合うことしかないと腹をくくって、無事全うすることができました。そしてTさんが寺に戻ってからは、復興が加速しました。師匠さんの住職就任披露とTさんが一人前の和尚になる法戦式という大法要が大震災2年後に営まれたのです。
当時の修行仲間も全国に散って、それぞれ僧侶としての道を歩んでいます。そして彼らは3月11日にはTさんの寺に毎年集まり、今も大震災犠牲者の追悼法要を行っています。Tさんの寺は彼らにとって、大震災に向き合うという第二の修行としての旦過寮なのかもしれません。
それでは又、3月11日よりお耳にかかりましょう。
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