テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1336話】「直心の交わり」 2025(令和7)年2月1日~10日

 元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1336話です。

 「一河(いちが)の流れ掬(く)むにさえ 深き恵(めぐみ)と知るものを 真心こもる熱き茶に 疲れを癒す有難さ」という御詠歌『報謝御和讃』が此君亭に流れました。茶室で聴く御詠歌は初めてです。御詠歌が茶室に染み入るのか、茶室が御詠歌を唱える人々を包み込むのか、得も言われぬ雰囲気を醸し出していました。

 此君亭とは、徳本寺開基家大條家ゆかりの茶室のことです。仙台伊達藩の重臣であった大條15代道直(みちなお)が、伊達家のお世継ぎ問題を解決した手柄により、天保3年(1832)に藩主より拝領した茶室です。当初仙台の大條屋敷にありましたが、昭和7年、大條家の拠点である山元町坂元の蓑首城(みのくびじょう)三ノ丸跡に移築されました。現在は町の指定文化財になっています。この茶室は一説には伊達政宗が豊臣秀吉より賜ったと言われるほどの貴重なものです。伊達藩の茶の湯文化を伝える唯一の遺構として歴史的評価も高いのです。

 そして大條家ではもうひとつ大きな功績を残しています。それは17代道徳(みちのり)の時、戊辰戦争に敗れた伊達藩は廃藩の窮地に立たされます。その時、道徳は戦後処理に力を発揮し、伊達藩を守ることができました。その功績により、元々伊達家の分かれである大條家姓を伊達に戻す命を受けます。改名し伊達宗亮(むねすけ)と名乗ります。その4代後の子孫に伊達みきおなる人物がいます。あのサンドウィッチマンです。そしてみきおさんの祖父母が新婚当時、この茶室に宿泊したという逸話もあるのです。

 しかし、茶室は老朽化に加えて、東日本大震災の被害により、存続の危機にさらされました。大震災からの復興が落ち着いた令和5年に、クラウドファンディング等で全国の方より支援を受けて、修復工事に着手。昨年11月修復完成し、一般公開となりました。そこで正月21日に修復後の杮落としや初釜の思いも込めて、徳本寺御詠歌講員と共に、茶室の歴史を学び慶祝のお唱えをしてお茶をいただく御詠歌茶会を催したのです。

 この地に茶室が移転されたことは、たまたまではなく、必然だったのかもしれません。その必然に応えるべく修復された茶室に、歴史の重みを感じました。御詠歌講員のお唱えは、いつにもまして心に響きました。まるで数百年の茶室の歴史が乗り移ったかのようでした。この茶室は文人墨客が集う文化サロンであったと伝わりますが、御詠歌が唱えられたことはなかったでしょう。新たな此君亭の姿の第一歩となりました。

 千利休は「直心(じきしん)の交わり」ということを強調しています。せめて茶席では世間的な利害得失や愛憎などの妄念を離れて、からっとした心の通い合いしましょうということです。茶室の御詠歌も上手く唱えようなどという雑念が消えていたのでしょう。だから「真心こもる熱き茶」は「歴史を示す有難さ」で、格別の味わいがありました。みなさまも是非、此君亭を訪ねて、直心の交わりをなさって下さい。
 
 それでは又、2月11日よりお耳にかかりましょう。



お祝いの御詠歌奉詠
 

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