テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1334話】「年賀状じまい」 2025(令和7)年1月11日~20日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1334話です。

 昨年のお正月、能登半島の人たちに、年賀状は届いたのでしょうか。地震発生が元旦の午後4時10分でしたので、配達はほぼ終わっていたかもしれません。しかし、その後の災害で混乱の中、年賀状を読めなかった人もいたことでしょう。また年賀状が瓦礫に埋もれたり、火災や津波で失われたかもしれません。そもそも年賀状どころではない、恐怖と不安が渦巻き、お正月そのものが吹き飛んでしまいました。

 炬燵に入って年賀状を1枚1枚眺めながら、縁のある人の近況を確認したり、ご無沙汰を思う時間は、お正月ならではです。しかしここ数年、「年賀状じまい」を宣言する方が増えています。「墓じまい」と共に「年賀状じまい」という言葉など、10年前にはなかったのではないでしょうか。「終い」は「お終い」ということで、まさに終わること、なくなることを意味します。「年賀状での挨拶を今年最後に終了させていただきます。これまでのご厚情に心より感謝申し上げます」という文章を読んだときは、一瞬ドキッとしました。せっかくのご縁が切れてしまうようで、正月早々寂しくなりました。まるで生前葬です。

 日本郵便の発表では、今年元旦に全国で配達した年賀郵便物は約4億9052万枚で、前年より34%も減りました。昨年秋に郵便料金が大幅に値上げされた影響が大きいようです。2011年には20億枚を超えていましたが、2022年には10億枚に減りました。そして3年後の今年はその半分以下となったのです。年始に関わらず、挨拶の手段が、メールやSNSなど多様化していることも一因なのでしょう。

 確かに年賀状を書こうが書くまいが、お正月はお正月です。でもお正月の風情ということで言えば、メールよりは年賀状です。遠く離れた人とも年賀状でのつながりは格別です。お互い今年もしっかり生きていこうという気持ちになります。効率を考えれば、いちいちはがきを書くのは面倒で無駄だというかもしれません。しかし効率だけの世界はぎすぎすしています。無駄はそのぎすぎすを滑らかにする潤滑油になり、心潤してくれます。落語評論家の広瀬和生は言いました。「無駄なところを落語から省いたらぜんぶなくなっちゃう」。無駄の塊が人の心を和ませ、笑う門に福をもたらすこともあるのです。

 何年か後に能登半島の人たちが、「あの年は年賀状どころではなかったが、今年はゆっくり年賀状を読めて、当たり前の有難さを感じるね」と思える日が来ることを願うばかりです。道元禅師は「梅早春を開く」と言いました。いつの日か能登に届く年賀状が、復興した春を開いて欲しいものです。それまでは「年賀状じまい」など考えずに、「災害じまい」に進しましょう。

 ここでお知らせいたします。昨年12月のカンボジアエコー募金は、534回×3円で1,602円でした。
 
 それでは又、1月21日よりお耳にかかりましょう。 

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