テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1273】「兜と天蓋」 2023(令和5)年5月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます



 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1273話です。

 「海渡り節句前から勝ち兜(かぶと)」4月26日の朝刊に載った川柳です。ご存じ大リーグエンゼルスベンチでの風景です。大谷選手がホームランを打つと、ベンチでは日本製の兜を持って祝福のお出迎え。大谷選手はそれを被って活躍をアピールするあの姿です。

 端午の節句に兜や五月人形を飾って、子どもの日をお祝いします。兜や鎧は武将が身につけるものですが、当然身を護るためです。それに倣って、子どもが厄や災いを逃れ、無病息災にて健やかに育つようにと願う象徴的な存在として、兜は用いられるのでしょう。野球で身を護るものに、兜ならぬヘルメットがあります。大谷選手の兜はホームランに対するお祝いムードを盛り上げる効果を狙ってのことです。

 さて、被ると言えば、お釈迦さまが屋外で説法をするときは、頭上を蓋う類のものを用いたそうです。暑さから身を護るためです。それに倣って、日本の寺院でも、「大傘」と言われる赤い傘を用いることがあります。その寺の住職に就任する時に行列を組みますが、新住職を祝い護るかのように、赤い大傘を差し掛けて歩きます。

 また同じ意味合いで、本堂の真ん中の大間の天井には、荘厳用の天蓋というものが下がっています。全体が金色で眩しいほどです。六角形・八角形など形は様々ですが、仏教のシンボルの花である蓮華模様が中心に彫られています。簾のように下がった瓔珞が、一層豪華さを演出します。天蓋の下は住職や導師を勤める方だけが座るところです。大傘や天蓋は尊い方を荘厳する仏具でもあるのです。

 実はこの天蓋が葬式の時も使われていると言ったら驚かれるでしょうか。ちょっと前まで野辺送りをしていた時は、紙で作った天蓋で棺を蓋いながら、お墓まで葬列を組みました。亡くなった人を暑さや雨・風から護るためです。そして天蓋には次のように書きます。「一切有為法 如夢幻泡影 如露亦如電 応作如是観ず(いっさいういのほうは ゆめまぼろしとあわかげのごとし つゆのごとくまたはいなずまのごとし まさにかくのごとくのかんをなすべし)」すべてのことは夢幻の如くに消えたり過ぎたりしてしまうものだ。徒に過ごさず一日一日を大切にしなさいという、亡き人からのメッセージとも受け止められます。そして説法の道場である本堂にあっては、和尚たる者、きらびやかな天蓋の下でふんぞり返っている場合ではないぞ、無常の理をしっかり説いて、人々に仏法を伝えなさいというお釈迦さまからの戒めとも言えます。

 兜も天蓋もその人を荘厳するだけでなく、諭す一面もあります。「勝って兜の緒を締めよ」とも言います。大谷選手が兜を被るのは、1本のホームランに浮かれることなく、次の打席を見据えて気を引き締めているのかもしれません。もっとも相手投手は、そんな大谷選手に対して、兜を脱いでいることでしょう。

 それでは又、5月11日よりお耳にかかりましょう。

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