テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1248話】「一投一打の道場」 2022(令和4)年8月21日~31日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1248話です。

 「住職とは、十の職業を持つ者」と、シャンティ国際ボランティア会を立ち上げた有馬実成さんは言いました。有馬さん自身が、曹洞宗の住職でもありました。僧侶という地位に胡坐をかいていないで、様々な活動を通して世の中に尽くしなさいということでしょう。ご自分は「飛び職」でもあると言って、海外も含めてあちこち飛び歩いて、ボランティアに身を投じていました。

 さて、大谷翔平選手は大リーガーという職業としては一つだけです。しかし、ふたつの職業を使い分けるが如く、投手と打者でとんでもない活躍です。8月9日10勝目を挙げ、おまけに25号本塁打も打ち、1シーズンでの2桁勝利と2桁本塁打を成し遂げました。104年前にベーブ・ルースが達成して以来、誰も成し得なかった偉業です。

 少年野球や高校野球くらいまでは、投手で4番打者という選手はいます。しかし、プロで両立させるのは至難の業です。投手と打者の能力や練習は全く質が違います。どちらかに専念しても、2桁勝利や2桁本塁打を達成するのは、一握りの選手だけです。更に、コンディションを維持することがたいへんです。先発投手の登板間隔は、最低でも4~5日必要です。大谷選手は、投手か打者で毎試合のように出場しています。大谷選手のためともいえるルール変更も成されました。打順に入った先発投手が、降板後も指名打者として試合に出続けられるというものです。記録だけではなく、規則まで動かしたと言われる所以です。

 そして、10勝は通過点でしょうが、更なる目標はと聞かれて、「今の数字がどういう印象なのか分からない。一番はなるべく健康で、良い状態で最後まで試合ができること。あまり先を見過ぎてもしょうがないので、ちゃんと寝て、いい明日を迎えられるように頑張りたいと思います」と答えています。

 まるで記録に無頓着のようです。とにかく、一試合一試合全力を尽くすことしか、考えていない風です。投げて打って全部できて野球は楽しいんだという野球少年の心そのものです。その心で彼の一投一打は日々、進む進化と深まる深化を続けているのでしょう。「歩歩是道場」という禅語があります。どこにあってもこの一歩一歩が道場であり、行動の一つひとつが仏行であるということです。大谷選手の一投一打は歩歩是道場の如しです。

 私たち僧侶も出家したての頃は、何がしかのワクワク感はあったかもしれません。しかし修行時代の厳しさの反動か、住職になってしまうと、法衣(ころも)を笠に着て、横柄な態度をとったり、怠惰な生活に陥ることもあります。十の職どころか僧侶としての品格すら怪しい時があります。僧侶には超えるべき100年前の記録はありませんが、何百年という法の灯・法灯を伝えていかなければなりません。先を見過ぎず、脚下照顧して、ちゃんと寝て、明日の朝5時からのお勤めに励みましょう。

 それでは又、9月1日よりお耳にかかりましょう。

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