テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1166話】「横並びの食事」 2020(令和2)年5月11日~20日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1166話です。

 修行僧は非日常の世界に生きているようなものです。修行道場には三黙道場なるところがあります。お話をしてはならない3つの場所です。東司(とうす)・浴司(よくす)・僧堂、いわゆるトイレとお風呂と坐禅をするところです。トイレは一人の世界に浸るとして、お風呂では、鼻歌も歌えない窮屈さ、坐禅はまさに沈黙の世界です。

 ところで、僧堂は坐禅ばかりではなく、食事をする食堂にもなり、就寝もするところです。「起きて半畳 寝て一畳」という畳一枚が、修行僧の世界です。当然すべて無言の行です。食事は横並びで、坐禅の姿勢でいただきます。係の和尚さんが、給仕してくれますので、大皿から取り分けるということはありません。とは言っても、朝はお粥・ごま塩・漬物、昼と夜はごはん・味噌汁・漬物それに精進の煮つけなどが一品添えられることもあります。食事にまつわるお経を唱える以外は、口を利くことは許されません。食事は楽しみではなく、修行そのものです。

 さて、新型コロナウイルス感染に関して政府の専門家会議は、感染の広がりを長期的に防ぐための「新しい生活様式」の具体例を示しました。密集・密接・密閉のいわゆる「3密」の回避や人との間隔はできるだけ2mはとることなどです。その中で食事の時は、料理は大皿は避けて個々に揃え、対面ではなく横並びで座りましょう、とあります。要するに、食べることに集中して、あまりお話はしないようにということでしょうか。まるで修行僧です。

 確かに、テレビを見ながら食事をするとか、うまいのまずいのと言いながら、箸をつけていくのは、食事を作ってくれた人にも、食材そのものにも失礼に当たります。食事の究極の目的は、我が命を養うことです。そのために、どれだけの命が提供されているかということに、思いを致さなければなりません。だから食事の前に感謝の気持ちで手を合わせ、食材になっているあなたの命を私の命にさせて「いただきます」と言うのです。

 コロナ騒動前であれば、私も得々と食事作法の一環として、そんなことをお話したことでしょう。勿論今もその心とするところは何ら揺るぎはありません。気になるのは横並びの食事風景です。修行時代の辛さを思い出すから言うわけではありませんが、あれほど寒々しい光景はありません。何が面白くて、黙々と食べ物を口に運んでいるんだという雰囲気です。あくまでも非日常の世界を生き抜くための暫定措置であると思ってください。ウイルス感染の心配がなくなっても、横並びの食事が、日常化しているということのないようにしましょう。

 「しあわせは 春の桜に秋の月 親子そろって 三度喰う飯」。これこそが日常の風景でしょう。えっ、コロナ騒動前から、我が家では家族揃って食事なんかしてませんよ、ですって!?。それは修行道場以上ですね。ご家族の方に同情します。

 ここでお知らせいたします。4月のカンボジアエコー募金は、196回×3円で588円でした。ありがとうございました。それでは又、5月21日よりお耳にかかりましょう。


僧堂(大本山總持寺)で食事前のお唱え

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