テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1120話】「恵方巻き」 2019(平成31)年2月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1120話です。

 農林水産省は1月11日に、節分に食べる恵方巻きについて、需要に見合った販売をするようコンビニなど業界団体に文書で異例の要請をしました。売れ残った恵方巻きの大量廃棄が問題になっているためです。恵方巻きは、節分の日にある方角に向かって丸かじりすると縁起が良いと言われる風習です。

 さて、お寺の台所や玄関に、台所の守護神韋駄天や縁起物の七福神がよく祀られています。更に正月には、守護神の後ろに「歳徳大善神(としとくだいぜんじん)」と紙に書いて貼ります。歳徳神はその年の福徳を司る神です。この神のいる方角を明()きの方(かた)、または恵方といいます。その方角に向かって事を行えば、万事に吉であるとされます。恵方はその年の干支によって決まりますので、己(つちのと)亥()の今年は、東北東になります。

 お寺しかも禅寺で、神や方角にこだわるのは、少し違和感があるかもしれません。しかし、毎朝のお経のお勤めの中でも、個人の幸せばかりではなく、世の中全体の安寧を願う想いが込められているのです。歳改まって、新たな気持ちでこの一年の檀家さんはじめ有縁無縁の方の吉祥を願って、歳徳神を張り出します。徳本寺においても、玄関に韋駄天と七福神のうちの大黒天と弁財天と毘沙門天が一体となった三面大黒天を祀り、毎朝お参りをしています。お正月ばかりではなく、日々良いことが、どの方角にあっても続きますようにという想いです。

 七福神といえば、江戸時代の高僧仙厓和尚に、こんな逸話があります。仙厓さんはあるお宅の新築祝いに招かれました。そこで何かお祝いの言葉を書いて下さいと所望されました。さらさらと書いた言葉は「ぐるりっと家を取り巻く貧乏神」。そこの主(あるじ)は「縁起でもない」と憤慨してしまいます。仙厓さんは「慌てるな、今から下の句を書くから」と言って「七福神は外に出られず」と書きました。それを見て、主はたいそう喜びました。

 「ぐるりっと家を取り巻く貧乏神 七福神は外に出られず」なるほどです。恵方という方角は、万事に吉であるから、これを最大限に利用して、福を呼ぼうとか、恵方巻きを売って儲けようという気持ちは十分に理解できます。しかし、それはご自身に貧乏神が宿っていると思い込んでいるからではないでしょうか。それより、今ご自身の中に少しでも芽生えている福に気づくべきです。それを育てて逃がさないようにすることが、幸せへの近道でしょう。その福とは、自分だけが幸せになるのではなく、他の多くの人にも幸せになって欲しいと願うことによって生まれます。大量廃棄された恵方巻きは、不幸の塊にしか思えないでしょう。農林水産省でなくとも、良き風習の願いから外れた恵方違法)行為と言いたくなります。

 それでは又、2月11日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【1329話】
「色褪せない思いやり」
2024(令和6)年11月21日~30日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1329話です。 個人的な話で恐縮ですが、11月21日で74歳になりました。古稀と喜寿の中間で、特別な意味はありません。またこのテレホン法話を始めて、今年で37年になります。これも40年にも満たず、特別感はありません。しかし、37年の倍が74年ということに気づきました。つまり我が半生はテレホン法話と共にあったということです。袈裟を... [続きを読む]

【1328話】
「お舎利」
2024(令和6)年11月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1328話です。 新米が出ると真っ先に、お寺に持ってこられ「ご本尊のお釈迦さまにお供え下さい」という檀家さんが何人もいます。ほんとうに有り難いことです。そのお下がりをいただく度に、「銀シャリ」を実感します。 シャリは寿司屋の符丁ですし飯のことです。お釈迦さまの遺骨はインドの言葉「シャリーラ」を... [続きを読む]

【1327話】
「祇園精舎の鐘」
2024(令和6)年11月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1327話です。 平安時代の頃、琵琶法師は琵琶を弾きながらお経を読みました。その後、平家物語に曲をつけて語る流れができました。仏教との関りは古いのですが、残念ながらこれまで、琵琶を聴く機会がほとんどありませんでした。 10月27日に徳本寺で行われた「第18回テレホン法話ライブ」で、やっとその心... [続きを読む]