テレホン法話
~3分間心のティータイム~
【第1059話】「赤ちゃんポスト10年」 2017(平成29)年5月21日-31日
住職が語る法話を聴くことができます
お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1059話です。
お釈迦さまの時代、訶梨帝母(かりていも)という女神がいました。女神とはいえ、自分には500人もの子どもがありながら、人の子をさらっては片っ端から食べてしまうという鬼のような存在です。そこでお釈迦さまは、訶梨帝母の子どもを一人密かに隠しました。愛児を失った彼女は、胸が張り裂けるような悲しみを味わいます。
「500人もの子どもがありながら、たった一人失うだけで、それほどの悲しみに襲われるのだ。おまえに子どもを食べられた母親たちの苦しみが、どれほどのものかわかるだろう」と、お釈迦さまに諭されます。以来、彼女は非を改め、お釈迦さまの下で仏教に帰依します。そして人の子のかわりに、人の肉に似たザクロを食べ、安産や育児の守護神になったといわれます。これが、右手にザクロを捧げ、左手に子どもを抱いている鬼子母神(きしもじん)です。鬼の子の母と書いて、子どもの守護神とは不思議でしたが、そんな由来があるのです。
さて、熊本市の慈恵病院で赤ちゃんポストの運用が開始され、5月10日で10年になりました。事情があって親が育てられない赤ちゃんを匿名で預かるというものです。これまで国外も含めて、日本全国から125人が預けられました。その理由として「生活困窮」「未婚」が多く、障害のある子も11人いるそうです。ほとんどが切羽詰まった状況での決断だったのでしょうが、親の都合を優先した「安易な預け入れ」もあるといいます。
当初から捨て子を助長するとの批判がありました。しかし病院側は、赤ちゃんの命を救う最後の手段であり、あくまでも緊急避難的なものであるとしています。赤ちゃんを捨てる母親はパニックになっています。冷静さをとり戻せば、養子縁組等いろいろ相談に乗って手助けすることができるからです。
道端に捨てられたら赤ちゃんなら、あっという間に息絶えてしまします。赤ちゃんポストであればこそ、命を救うことができます。ただ、子どもが成長して、自分の親が誰で、どこで生まれ、どのように育ったのかを知る権利があります。何らかの理由で、自分のそばにほんとうの親がいないとして、その理由がわからなければ、ただ捨てられたと思うこともあるのではないでしょうか。ポストは「肉体的な命は救えても、心を救うことができるのか」というのが、開設の時から重くのしかかっている問題です。
簡単に赤ちゃんポストを否定はできません。しかし簡単に赤ちゃんポストを利用しないで、冷静になって下さいと伝えたいです。訶梨帝母は我が子を失った悲しみから、子どもを守る鬼子母神になりました。赤ちゃんポストを利用したとしても、その時の辛さをバネに、いつの日か子どもの前に現れ、りっぱに育て上げれば、誰からも、恐れ入谷の鬼子母神と感心されるはずです。
それでは又、6月1日よりお耳にかかりましょう。
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