テレホン法話
~3分間心のティータイム~
【第907話】「巡るもの」 2013(平成25)年3月1日-10日
住職が語る法話を聴くことができます
お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第907話です。
「惜しみても帰らぬものは 日と月と 川の流れと人の命と」という歌があります。東日本大震災から間もなく2年が経ちます。せめてあの日あの時の30分前いや10分前にでもいいから、戻ることができたら、みんなでとにかく避難することだけを考えて行動したいと誰もが思うことでしょう。しかし、1分1秒たりとも過去に戻ることはできません。勿論どんなに愛しい人であれ、失われた命も戻ることはありません。
遺体が発見され身元が確認されて、犠牲者の一人と認定された人や死体が見つからないまま死亡認定となった人。いまだ行方が分からない人もいます。時間が戻らないのは納得しても、せめて懐かしい顔が、優しい声が戻ってきて欲しいとこの2年間思い続けてきたはずです。
そして、命だけは辛うじて助かったものの、家一軒丸ごと流されてしまった人は、先祖から受け継いできたものや、今の今まで愛用していた日用品や思い出の品々まで、すべてを失ったのです。高価なものやお金では買えないものなど、情け容赦なく津波は呑み込んでいきました。それらは地上で瓦礫と呼ばれるような理不尽な姿になったものもあります。また、海に流されて、アラスカやカナダに漂着したものもあります。震災の漂流物は、壊れた橋など全部で150万トンも太平洋を漂流しているそうです。サッカーボールやオートバイが現地で拾われ、被災地の方が持ち主であることが確認されて、話題になったことは記憶に新しいところです。
さて、日本が位置する北半球の中ぐらいの緯度では、風は偏西風で西から東に吹いています。波も基本的に東に向かいますので、日本からの漂流物が、北米大陸の西海岸に漂着することがあります。しかし、海をぐるっと巡って西に向けて帰ってくる物もあると、環境省では予測しているそうです。北半球でも赤道に近いところでは、貿易風が東から西に吹いて、海流も西に向けて流れます。北太平洋の海には亜熱帯循環という時計回りの海流ができているからです。
その結果、その海流に乗った漂流物の一部は、現在ハワイの北の方を通り越したそうです。6月にはフィリッピンに近づくし、沖縄にも来るかもしれないというのです。2年以上も広い海を漂ってきた物は、既に本来の価値を失っているでしょう。しかし、惜しみても帰らぬものが、帰ってきたとしたら、それはそれでまた別の感慨が湧くのではないでしょうか。
亡き人を想うとき、私たちの心の海には、想い出という海流が流れていて、また祈るという風も吹いているような気がします。だから亡き人の顔や声が戻ってきて、心に宿すことができます。そして月日は流れて戻りませんが、命日は毎年巡ってきます。3月11日命を想い、手を合わせましょう。
それでは又、3月11日よりお耳にかかりましょう。
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